賃料の減額等について

カソッカちゃん
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第1章 賃借物の一部使用不能による賃料の減額について

1 改正民法第 611 条第 1 項及び賃貸住宅標準契約書(平成 30 年 3 月版)に
ついて

(1) 改正民法第 611 条第 1 項と改正の趣旨
(賃借物の一部滅失等による賃料の減額等)
第 611 条 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることが
できなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由
によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった
部分の割合に応じて、減額される。
本条の趣旨は以下の通りである(資料:民法部会資料69Aから一部要約)。

(第1項)
○ 現行の民法では、賃借物の一部が「賃借人の過失によらないで」「滅失」した
ときは、その滅失した部分の割合に応じて賃借人が賃料の減額を「請求することが
できる」と規定している。もっとも、賃料は、賃借物が賃借人による使用収益の
可能な状態に置かれたことの対価として日々発生するものであるから、賃借物の
一部滅失によってその一部の使用収益が不可能になったときは、賃料もその一部の
割合に応じて当然に発生しないと考えるべきであることから、賃借物の一部が
滅失等をした場合に、その部分の賃料が当然減額することとしたものである。
○ また、賃借人に帰責事由がある場合にまで賃料の減額を認めるのは不相当である
等の理由から、賃借人に帰責事由がある場合には、賃料減額を認めるべきでない。
それゆえこの点については現行の内容を維持した。
○ 賃借物は賃借人の支配下にあり、賃借人に帰責事由があるかどうかは賃貸人が
把握できないといった意見などを考慮し、帰責事由の立証責任については、賃借人に
負わせるという現状を維持することとしている。
【参考:旧民法(改正前)第 611 条第1項】
(賃借物の一部滅失による賃料の減額請求等)
第 611 条 賃借物の一部が賃借人の過失によらないで滅失したときは、賃借人は、
その滅失した部分の割合に応じて、賃料の減額を請求することができる。
※ 以下、本書第1章から第3章において単に「民法」とある場合は、改正後の民法を指す。

(2) 賃貸住宅標準契約書(平成 30 年3月版)第 12 条第1項と解説コメント
(一部滅失等による賃料の減額等) (注)甲:貸主 乙:借主
第 12 条 本物件の一部が滅失その他の事由により使用できなくなった場合に
おいて、それが乙の責めに帰することができない事由によるものであるときは、
賃料は、その使用できなくなった部分の割合に応じて、減額されるものとする。
この場合において、甲及び乙は、減額の程度、期間その他必要な事項について協議
するものとする。
本条の趣旨は以下の通りである(資料:賃貸住宅標準契約書(平成 30 年3月版)
解説コメントから抜粋)。

【第1項】
本物件の一部が滅失等により使用できなくなった場合に、それが借主の帰責事由に
よるものでないときは、使用不可の部分の割合に応じて賃料が減額されるものとし、
その内容は貸主と借主の間で協議することとしている。平成 29 年民法改正で、
賃借物の一部が賃借人の帰責事由によらずに滅失等をした場合の賃料の減額について、
従来は「請求することができる」とされていたところ、「(賃料は)減額される」と
当然に減額するものとされた(民法第 611 条第1項)。
ただし、一部滅失の程度や減額割合については、判例等の蓄積による明確な基準が
ないことから、紛争防止の観点からも、一部滅失があった場合は、借主が貸主に通知し、
賃料について協議し、適正な減額割合や減額期間、減額の方法(賃料設定は変えずに
一定の期間一部免除とするのか、賃料設定そのものの変更とするのか)等を合意の上、
決定することが望ましいと考えられる。

2 本書における改正民法第 611 条第1項の基本的な考え方
○ 本書では、民法第 611 条第1項における「賃借物の一部が滅失その他の事由により
使用及び収益をすることができなくなった場合」として、賃貸住宅については、
○ 物件の物理的な破損だけではなく、設備の機能的な不具合等による場合も
含めて、物件の一部が使用できず、
○ その一部使用不能の程度が、社会通念上の受忍限度を超えており、通常の居住が
できなくなった
場合と解釈している。
○ 賃料は、借主が適切に居住できることの対価であることから、こうした場合には、
物件を使用できない割合に応じた相当額の賃料に減額されることとなる。
○ 一方、実務においては、貸主と借主の協議によって、賃料の減額に代えて、それに
相当する代替手段や代替品の提供等の対応がとられることも多い。
○ 円満な賃貸借関係を継続する観点からも、貸主と借主双方が誠意をもって協議し、
解決することが、望ましい基本的な対応になるものと考えられる。
図 賃料減額の基本的な考え方
一部使用不能の原因
・ 物理的滅失
賃料が減額される要件
○ 受忍限度を超えていること
・ 機能的滅失 等
一部使用不能 発生
(通常の居住ができないこと)
(通常の居住ができないこと)
○ 借主に帰責事由がないこと
○ 本条に基づく賃料減額については、借主に帰責事由がないことが要件とされており、
通常、貸主は、住戸内の設備の不具合等を知り得ないと考えられることから、借主は、
入居時の物件状況等の確認リストや写真等を活用して、一部使用不能の原因を説明
できるよう努めることに留意する必要がある。
○ また、借主は、修繕を要する箇所を発見した場合には、貸主に遅滞なく通知する義務
(民法第 615 条)を負っており、通知が遅れたことにより貸主に損害が生じたときには
賠償責任を負うことがあり得る(民法第 415 条第1項)。
○ 一方、貸主は、修繕義務(民法第 606 条第1項)を履行しないことにより、借主に
損害が生じた場合には賠償責任を負うことがあり得る(民法第 415 条第1項)。

 

第2章 賃料の減額等に係る貸主・借主の対応について

1 貸主・借主による協議・決定までの流れと確認事項
○ 物件の一部使用不能による賃料減額等がトラブルとなる主な原因としては、以下の
点についての判断が困難であることが挙げられる。
・ 一部使用不能の程度が通常の居住ができない状態に達していること
・ 一部使用不能の原因が借主の帰責事由によるものでないこと
○ このため、物件の破損や設備の不具合等による一部使用不能が発生した場合、まず
借主は、遅滞なくその旨を貸主に通知することが必要であり、通知を受けた貸主にも、
速やかに破損や不具合等の状況やその原因を確認することが求められる。
○ 一部使用不能の程度が通常の居住ができない状態であって、借主に帰責事由がない
場合、貸主と借主は賃料減額等の対応を協議・決定することとなる。
図 一部使用不能の際の協議までの流れ及び確認事項

協議・決定
現場確認
通知
○ 借主は、一部使用不能の状態を発見した際は、遅滞なく貸主に通知 するとともに、その発生日時、経緯、日常の使用方法を文書で整理し、 一部使用不能の状態を写真等で記録しておくよう努めること。
○ 貸主は、通知を受けたら、現場確認のために入居時物件状況等 リスト(国土交通省住宅局「原状回復をめぐるトラブルとガイド ライン(再改訂版)」参照)等の資料を用意すること。
○ 借主は、用意した資料により、貸主等の理解を得られるよう十分な 説明を行うこと。
○ 貸主は、修繕完了の目安を可能な限り早く知らせること、また、 代替手段や代替品の提供が容易な場合は、必要な対応を行うことを 借主に説明すること。
○ 貸主は、一部使用不能の程度が通常の居住をすることができない 状態であるか否かを確認すること。
○ 借主、貸主双方の資料を突き合わせて、借主に帰責事由がないこと を確認すること。
○ 貸主と借主は、通常の居住ができず、借主に帰責事由がない場合、 賃料の減額を基本に双方の事情を話し合うこと。
○ 貸主と借主は、円満な解決のために代替手段等の提供も含めた 柔軟な対応について協議・決定すること。

2 協議にあたっての留意点
○ 照明器具の故障等設備の利用に不便が生じている状態や居住を妨げない程度の
建具の不具合や隙間風を生じない程度の壁や窓の破損等については、原則として、
賃料減額の対象とはならないと考えられる(p.24 事例8参照)。
○ 物件が老朽化している場合、その分家賃が低く設定されていることがある。借主も
そのことを承知の上で賃貸借契約を締結しているのであれば、さらに賃料を減額する
ことで、貸主の負担が過大となるおそれがあることを考慮すべきである。
○ 貸主は、物件の修繕にあたって、誠実に対応したとしても、部品調達や業者の手配等
にある程度の時間を要する場合があるので、修繕の完了に向けたスケジュール等に
ついては、借主に対して具体的な説明を行うべきである。

3 賃料減額等の対応を決定する際の考慮事由
賃料減額等の協議・決定にあたっては、以下の点を考慮し総合的に判断する必要が
ある。
○ 使用不能な期間
・ 一部使用不能が発生した場合に、直ちに通常の居住ができないと判断される
わけではないこと
・ 賃料減額の対象は、一部使用不能の程度が社会通念上の受忍限度を超えて、
通常の居住ができなくなったときから修繕が完了するまでの期間であること
○ 使用不能の程度
・ 一部使用不能の程度が使用に不便があるという程度を超えていること
○ 使用不能な面積
・ 使用できない部分の面積が明らかな場合には、修繕が完了するまでの期間の
日割家賃を面積按分した額を減額することが考えられること
・ 判例においても、面積按分の考え方を取り入れているものがあること(p.19
事例3参照)
○ 代替手段・代替品の提供
・ 減額割合の算定等にかかる貸主・借主双方の負担が過大となる場合などには、
代替手段の提供等柔軟な対応も必要であること
・ 代替手段の提供等により、一部使用不能により不便は生じているものの、
通常の居住ができない状態とまでは判断されない場合があること

第3章 相談対応における情報提供・留意点等
賃借物の一部使用不能による賃料減額等についての相談を受ける際の情報提供の
基本的な内容、留意点・確認事項については、以下のとおりである。

1 賃料減額等の実態に関するポイント
改正民法第 611 条第1項の内容については、管理業者に対するアンケートでも
なかなか知られていない状況にあり(p.33 参考資料 資料2参照)、借主である
一般消費者は、さらに知らない状況にあることが想定される。
情報提供にあたっては、以下が基本的な内容となる。

(1) 判例の傾向【第4章参照】
○ 民間賃貸住宅に関して、物件の一部使用不能による賃料の減額等に関する
判例は多くなく、また、賃料減額が認められたトラブル類型も多くないため、
判例の蓄積が待たれる状況にある。
○ 判例は賃料減額が認められるか否かにつき、一部使用不能が通常の居住を
不可能にするほどの状態であるかを判断している傾向にある。
○ 賃料減額の程度については、雨漏りの事例で面積按分による考え方、カビが
問題となった事例で借主が被害を防止することができたかどうかという考え方を
示しており、減額金額を決定する要因を示す判例は存在するが、客観的な判断基準
が示されているとはいえない状況である。

(2) 実務の動向【第 1 章、参考資料 資料 2 参照】
○ 物件の一部使用不能が発生した場合、貸主(又は管理会社等)と借主との話し
合いによって、トラブルの解決が図られていることが一般的である。
○ 修繕が完了するまでの期間が長い場合に賃料の減額が行われていることが
多くなっている傾向が見られた。
○ 物件の一部使用不能の際の貸主の対応方法としては、賃料の減額(修繕が
完了するまでにかかった日数分程度の家賃の日割金額)のほか、相当額の金銭や
代替品を提供するといった柔軟な対応が取られている。

2 相談対応にあたっての留意点・確認事項

(1) 留意点
○ 貸主への対応
貸主からの相談においては、借主が賃借物の一部使用不能を理由に賃料の減額を
求めてきているが払う必要があるのかといった相談や、悪質な借主がことあるごとに
賃料減額を求めてきて困るといった相談が想定される。
このような相談では、以下の点に留意することが重要である。
○ 借主から修繕を要する箇所を発見した旨の通知を受けたときは、速やかに
現場確認を行うことを勧めること。
○ 貸主は、借主に対し、借主に帰責事由がある場合を除き、物件の使用に必要な
修繕をする義務を負っているため(民法第 606 条第1項)、借主が修繕の必要性
を訴えているのであれば、誠実に対応する必要があることを理解してもらう
こと。
○ 借主に帰責事由がなく、一部使用不能の状態が一般社会生活上受忍すべき
程度を超えているのであれば、賃料が減額されることが基本であること。賃料
減額に代えて、別の対応について協議する場合においても、誠意をもって交渉
することを勧めること。
○ 貸主は、一部使用不能となった物件の修繕にあたって、誠実に対応した
としても、部品の調達や業者の手配等にある程度の時間を要することが
あるので、修繕の完了に向けたスケジュールや状況等について、借主に対して
具体的な説明を行うこと。
○ 借主への対応
借主からの相談においては、賃借物の一部が使用不能であるのに、貸主が賃料減額に
応じないといった相談や、貸主や管理業者等との交渉方法についての相談や、訴訟に
なれば勝てるのかといった相談が想定される。このような相談では、以下の点に
留意することが重要である。
○ 借主の帰責事由によらずに賃借物の一部が使用不能となった場合には、
賃料は当然に減額されることが基本ではあるが、実務上、多くの場合は話し合い
によって、減額の程度や期間、対応方法等が決められているため、まずは、
貸主や管理会社等と丁寧に交渉することを勧めること。
○ 貸主の理解を得るため、また、万が一訴訟に発展した場合の証拠とする
ために、交渉にあたっては事前に一部使用不能に至った経緯や修繕を希望する
箇所の様子や、交渉の際の日時・やり取りの内容を文書や写真で記録しておく
ことを勧めること。
○ 賃料が当然に減額されることを理由とする一方的な賃料の支払拒否は、
貸主から契約を解除され、建物明渡訴訟を提起されるリスクがあること。
○ 訴訟に敗訴すれば物件からの退去、及び未払賃料の支払義務(支払わなかった
期間の利子や契約内容によっては違約金を含む)や損害賠償金の支払義務が
発生する可能性があることを理解してもらうこと。
○ 修繕義務の範囲は契約締結時に予定されていた目的物の性状の範囲内での
使用に必要な限度において認められるため、当初予定されていた程度以上の
ものを借主が一部使用不能として修繕や賃料減額等を要求できるわけではない
こと(p.18 事例2参照)。
○ 双方共通の留意点
貸主、借主双方から賃料減額の可否や減額内容、賃料減額を制限する特約の有効性に
ついての相談が想定される。このような相談では、以下の点に留意することが重要で
ある。 ○ 法的な判断が必要と思われる場合には、法律専門家に委ねること。
○ 弁護士会や司法書士会、行政書士会が行政機関と連携して無料相談を行って
いる場合があることや、法テラスが相談を受けたり、相談先を紹介してくれる
ことを伝えること。

(2) 確認事項
相談対応にあたっては、紛争を未然に防止するために、以下の事項を確認することが
重要である。
○ 契約書の内容の確認
民法では契約自由の原則が認められているため、強行規定に反しない限り、契約
内容が尊重されることになる。そのため、賃貸借契約書内の一部使用不能に関する
条項や免責規定、特約、修繕負担区分表の内容がどのようなものかを確認する必要
がある。
契約書の内容に疑義が生じた場合には、法律専門家への相談を勧めることに
なる。
○ 一部使用不能の態様の確認
一部使用不能は社会通念上一般的に通常の居住を不可能とするレベルにある
ことを必要とし、その相当性の判断においては、一般社会生活上受忍すべき程度を
超えているか否かに着目することになる。
一部使用不能による賃料減額を強く主張する場合には、法律専門家への相談を
勧めることになる。
○ 借主の帰責事由についての確認
借主に帰責事由がある場合には、一部使用不能状態にあっても賃料減額とは
ならないため、借主の故意、過失等について確認する必要がある。明らかに借主に
帰責事由がある場合は、その点を踏まえた相談対応を行い、借主の帰責事由の
有無に疑義が生じた場合には、法律専門家への相談を勧めることになる。
○ 借主に帰責事由がないことを証明する証拠の有無についての確認
借主は自らに帰責事由がないことを立証する責任があるため、そのような
証拠があるのかどうかを確認する必要がある。帰責事由がないことの証明は
容易ではないと考えられるため、その点を踏まえた相談対応を行い、借主が訴訟
提起の意向を示す場合には法律専門家への相談を勧めることになる。
○ 借主と貸主、管理会社等の交渉についての確認
紛争の未然防止のためには、交渉による平和な解決が重要であるため、交渉が
継続的になされているかどうか、また、その際の双方の対応や主張の内容はどの
ようなものかを確認する必要がある。その際、賃料減額と並行して修繕や保険に
ついても交渉しているかどうか、保険がある場合には損害の填補の可能性に
ついて貸主に確認しているかどうかを把握することが有用である。交渉の継続、
交渉内容の記録等を勧め、一方の交渉の態度が不誠実である場合には、法律専門家
への相談を勧めることになる。

第4章 賃借物の一部使用不能による賃料の減額等にかかる判例の
動向

1 賃借物の一部使用不能等による賃料の減額等にかかる判例の概要
賃借物の一部使用不能等による賃料の減額等に関するトラブルの未然防止に資すると
思われる判例における主な争点、判示事項は以下の3点である。

1 使用不能等の内容がどれほどの程度である場合に、賃料減額が認められるのか。

2 賃料減額が認められる場合に、その減額金額はどのように定められているのか。

3 借主が賃料の支払いを拒絶ないし一部の支払いに止まる場合に、貸主からの
賃貸借契約の解除が認められるか。

1について、判例は賃借物が一部滅失はしていないものの使用収益できなくなった
場合に、賃貸借契約の目的を達成することができないほどに使用収益ができなくなって
いるか否かについて判断しており、雨漏り(事例1大阪地裁判決、事例3名古屋地裁判決)、
漏水やカビ(事例4東京地裁判決、事例9東京地裁判決)、排水管の閉塞(事例5東京
地裁判決)、窓の破損(事例 10 東京地裁判決)、換気扇の不具合や便器の故障による
汚水の漏れ(事例 11 東京地裁判決)等の事例において賃料の減額が認められている。
一方、エアコンの不具合や備品の軽微な不具合、照明器具や換気扇の故障(事例7東京
地裁判決、事例8東京地裁判決)の事例では、修繕費用が軽微であること、一部不能と
まではいえないこと等を理由に賃料減額を否定している。また、他室の騒音(事例6東京
地裁判決)については「(民法第 611 条第1項の)類推適用が許される場合があり得ると
しても、少なくとも、相当期間にわたって一定時間客観的に受忍限度を超えた騒音が続く
状態であるなど、物理的にも一部使用不能状態が明らかであることが必要と解する」と
判示し賃料減額を否定している。

2については、雨漏りにより使用不能となった面積分の按分を考慮し減額幅を決めた
判例(事例3名古屋地裁判決)や、「カビによる被害などは、賃借人においてもっと
防止に努力すれば、より軽減された可能性のあること」といった被害防止可能性を考慮に
入れた判例(事例4東京地裁判決)等、減額金額決定の一要因を示す判例も存在するが、
多くの判例においては事案ごとの個別判断が行われており、客観的な判断基準は
示されているとはいえないのが判例の動向である。

3については、貸主の契約解除の意思表示の効力を否定した判例(事例1大阪地裁判決、
事例6東京地裁判決、事例 10 東京地裁判決、事例 11 東京地裁判決)とその効力を肯定
した判例(事例2東京地裁判決、事例7東京地裁判決)に分かれているが、判例は賃料の
不払いの要因となっている貸主の修繕義務不履行の態様や借主の賃料不払いにある
程度の根拠が認められるか否かといった点を考慮して信頼関係破壊の有無を判断して
いるように思われる。

2 事案及び使用不能等の態様及び判断
事例 事案 一部使用不能等の態様及び判旨の概要

事例1
(住宅)
一部使用不能等の態様 屋根の雨漏り
一部使用不能等に関する判断 屋根の損傷は住宅として使用する 上に著しく支障のある状態にあったと 認めるが相当。賃借人による賃料支払い の拒絶には適法と言い難い面もあるが、 賃貸人の契約解除の意思表示は解除の 効力を生じたと解する余地はない。

事例2
(住宅)
屋根の雨漏りを理由とする賃借人 の 賃 料 支 払 い の 拒 絶 に 対 し て 、 賃貸人が賃貸借契約の解除を主張 したが否定された事案
【大阪地判昭和 32 年3月 26 日】 判例時報第 130 号 22 頁
一部使用不能等の態様 界壁がベニヤ板一枚程度のもので あったこと
一部使用不能等に関する判断 修繕義務とは、当初予定された程度 以 上の も の を賃 借 人に お い て要 求 できる権利まで含むものではなく、 修繕義務が無い以上、賃料減額請求権も 認められない。

事例3
店舗
兼住宅
賃 借 人 が 、 貸 室 の 遮 音 構 造 が 不 完 全 で あ る の で 、 賃 貸 人 に は それを相当な程度にまで改修すべき 修繕義務があり、それを尽くさない 場合には賃借人側に賃料減額請求権 が発生すると主張したが否定された 事案 【東京地判昭和 55 年8月 26 日】 判例タイムズ第 992 号 76 頁
一部使用不能等の態様
賃貸建物の一部が使用収益できなく 賃貸人の修繕義務不履行により
天井及び壁からの雨漏り
な っ た 場 合 、 賃 借 人 は 賃 料 減 額 請求権を有するとした事案
一部使用不能等に関する判断 二階部分(住宅)の少なくとも三分の 【名古屋地判昭和 62 年1月 30 日】
二が、原告の修繕義務の不履行により 判例時報第 1252 号 83 頁
使 用で き な い状 態 にあ っ た こと が 認められるところ、民法第 611 条第1項 の規定を類推して、賃借人は賃料減額 請求権を有すると解すべきであるとし、 賃料の 25%を減額した。
事例 事案 一部使用不能等の態様及び判旨の概要

事例4
(住宅)
一部使用不能等の態様 工事中の騒音、雨漏り、カビ等
一部使用不能等に関する判断 被告入居後の本件建物及びその周辺 の住環境は、原告が宣伝したものとは 程遠いものというべく、その特殊事情の ため、その賃料は減額を免れない。減額 の程度は、減額すべき要因が、住環境の 快適さという点に関するものであり、 そ の要 因 に よっ て 受け る 影 響に は 個人差のあること、カビによる被害 などは、賃借人においてもっと防止に 努力すれば、より軽減された可能性の あることを考慮し、賃料の約三分の一と した。

事例5
(住宅)
ハイ・グレードを売り物とし、 そのため高めに賃料額の設定された 賃貸マンションに入居した者からの 工事騒音や雨漏り、カビ発生等を 理 由 と す る 賃 料 減 額 請 求 が 認 め られた事案
【東京地判平成6年8月 22 日】 判例時報第 1521 号 86 頁
一部使用不能等の態様 マ ン シ ョ ン の 排 水 管 の 閉 塞 に ついて賃借人に責任がある場合でも
排水管の閉塞
賃貸人において合理的な期間内に 修繕すべきであるとして、賃料の
一部使用不能等に関する判断
三割相当額の支払い拒絶を認めた
賃貸人は、賃貸建物の使用収益に 事案 必要な修繕を行う義務を負うから、 賃 借人 の 責 任で 修 繕を 必 要 とす る 【東京地判平成7年3月 16 日】
状態に至った場合においても、合理的な 判例タイムズ第 885 号 203 頁
期間内に修繕を行うべきである。右 期間内に修繕が行われなかったときは、 賃借人は信義則上、以後の賃料の支払い を建物の使用収益に支障を生じている 限度において拒絶し、あるいは減額の 請求をすることができると解すべきで あるとし、賃料の 30%の減額を認めた。
事例 事案 一部使用不能等の態様及び判旨の概要

事例6
(住宅)
一部使用不能等の態様 他室よりの騒音
一部使用不能等に関する判断 他室の居住者の騒音被害による生活 妨害等に賃貸人が対応しないことは、 通常目的物の一部滅失と同視される ものではなく、当然には民法第 611 条が 類推適用されるとはいい難い。類推適用 が許される場合がありうるとしても、 少なくとも、相当期間にわたって一定 時間客観的に受忍限度を超えた騒音が 続く状態であるなど、物理的にも一部 使用不能状態が明らかであることが 必要と解する。
マンションの賃借人が、騒音被害 が改善されないことを理由に賃料 及び共益費の半額を支払わなかった ことに関し、賃貸人が債務不履行 解除した場合につき、賃貸借契約 解除の意思表示は無効であるとした 事案(賃貸人による解除を否定し つつ、賃借人の一方的な賃料減額の 効果も否定した)
マンションの賃借人が、騒音被害 が改善されないことを理由に賃料 及び共益費の半額を支払わなかった ことに関し、賃貸人が債務不履行 解除した場合につき、賃貸借契約 解除の意思表示は無効であるとした 事案(賃貸人による解除を否定し つつ、賃借人の一方的な賃料減額の 効果も否定した)
マンションの賃借人が、騒音被害 が改善されないことを理由に賃料 及び共益費の半額を支払わなかった ことに関し、賃貸人が債務不履行 解除した場合につき、賃貸借契約 解除の意思表示は無効であるとした 事案(賃貸人による解除を否定し つつ、賃借人の一方的な賃料減額の 効果も否定した)
【東京地判平成 15 年3月 31 日】

事例7
(住宅)
一部使用不能等の態様
【東京地判平成 15 年6月6日】
一部使用不能等に関する判断 ル ー ム エ ア コ ン の 修 理 支 払 額 は 1,800 円であり、電話工事の支払額は 2,100 円である。これら費用は、いずれ も 被告 が 本 件建 物 を賃 借した後に生じた軽微な修繕費用であって、借主で ある被告が負担すべきものである。 また、広告は、本件建物について庭付 一戸建風と表示してあるが、これは勧誘 文言に過ぎず、庭の使用について特に 定めはない。いずれも賃料を減じる理由 にはならない。
賃料支払請求に対し、賃借人が賃料 減額を主張したが否定された事案
賃貸人からの建物明渡及び未払
電話配線の切断
庭が使えない状態、冷暖房の未作動、事例 事案 一部使用不能等の態様及び判旨の概要

事例8
(住宅)
一部使用不能等の態様 照明器具・換気扇の故障
一部使用不能等に関する判断 原告に、その修繕義務の不履行(履行 遅滞)はあったところ、その原因は故障 した部品の交換に時間がかかったと いうのであって、そのことから原告の 帰責事由が否定されるわけではないが、 被告において、当該部品の交換まで、 本件滞納賃料の支払いを拒絶し得る も ので あ っ たと ま で認 め る こと は できないし、もとより賃料の減額を請求 し得る場合でもない。

事例9
(住宅)
賃貸人が未払賃料の支払いを求めた本訴に対し、賃借人が民法 第 611 条の類推適用による賃料の 減額等を求めたが否定された事案 (慰謝料として月1万円の支払いは 認めた)
【東京地判平成 15 年7月 28 日】
一部使用不能等の態様
被告らに対し、未払賃料等の支払い
賃貸人である原告(反訴被告)が、
トイレからの漏水及びカビの発生
等を求め、賃借人である被告(反訴 原告)が、原告の修繕義務の不履行に
一部使用不能等に関する判断
より、建物内に保管していた被告
本件水漏れに加え、本件カビの発生、 制作の版画等がカビに汚染されたと
増殖により、本件建物を通常の用法に して、損害賠償を求めた事案(賃料
したがって使用収益することは阻害 減額を肯定)
されるに至ったとみられるから、本件 建物につき通常の使用ができなかった 【東京地判平成 17 年8月 30 日】
割合に応じて被告Aは、賃料の減額請求 をすることができるというべきである (民法第 611 条第1項類推適用)。減額 されるべき賃料の割合は、本件建物の 全部が本件カビに汚染されていたもの ではなかったこと、前記期間中、被告A のほかLも本件建物に居住し得たこと、 被告Aには、本件カビの発生を知った ときから、これに対する防除の措置を とることが可能であり、またこれを 期待し得たこと、本件カビの拡散には 被告Aの対応の不備も与っていると 思われることなど諸般の事情を併せ 考慮すると、3 割と評価するのが相当で ある。

事例 事案 一部使用不能等の態様及び判旨の概要

事例 10
(住宅)
一部使用不能等の態様 窓の破損
一部使用不能等に関する判断 賃借人は、賃貸人が修繕義務を履行 しないときは、民法第 611 条第1項の 規定を類推して、賃料減額請求権を有すると解されるところ、上記修繕の 対象は窓であり、本件建物の使用収益に 及ぼす障害の程度、被告が中目黒の 友人宅に居住せざるを得なかったことなど、諸般の事情にかんがみると、本件 賃貸借契約においては、減額されるべき 家賃等は 50 パーセントをもって相当と する。
賃料等の不払いを理 由 として賃貸借契約を解除した賃貸人が建物明渡と未払賃料及び賠償金の支払い を求めたが、賃借人には賃料減額を 求めることができる事情があり、 解除は許されないとして未払賃料の一部に限り請求を認容した事案
賃料等の不払いを理由として賃貸借契約を解除した賃貸人が建物 明渡と未払賃料及び賠償金の支払いを求めたが、賃借人には賃料減額を 求めることができる事情があり、 解除は許されないとして未払賃料の 一部に限り請求を認容した事案
【東京地判平成 18 年9月 29 日】
【東京地判平成 18 年9月 29 日】

事例 11
(住宅)
一部使用不能等の態様
【東京地判平成 23 年 12 月 15 日】
一部使用不能等に関する判断 本件建物の使用収益に及ぼす障害の 程度その他諸般の事情に鑑みると、本件賃貸借契約においては、減額されるべき 賃料額は1万円をもって相当とする (民法第 611 条第1項類推、賃料 6万円)。
一部使用不能等に関する判断 本件建物の使用収益に及ぼす障害の 程度その他諸般の事情に鑑みると、本件 賃貸借契約においては、減額されるべき 賃料額は1万円をもって相当とする (民法第 611 条第1項類推、賃料 6万円)。
ことを理由に賃借人が賃料を減額 して支払っていたところ、賃貸人 からの契約解除が否定された事案
賃貸人が修繕義務を履行しない
備品冷蔵庫の故障、便器の取り付け部 からの汚水の漏れ
台所及び風呂場の換気扇の不具合、

3 事例紹介
【事例1】屋根の雨漏りを理由とする賃借人の賃料支払いの拒絶に対して、賃貸人が
賃貸借契約の解除を主張したが否定された事例
大阪地方裁判所判決昭和32年3月26日 判例時報第 130 号 22 頁
1 事案の概要(原告:賃貸人X 被告:賃借人Y)
賃貸人Xは、昭和 28 年2月 24 日、本件家屋につき賃料 1,707 円、賃料の支払方法は
毎月末日Xへの持参払いとする賃貸借契約を賃借人Yと締結した。賃借人Yは同年9月
より家屋の雨漏りを理由に賃料の支払いを拒絶し始め、同年 10 月 31 日より複数回、
大阪法務局において家賃を無条件、あるいは、賃貸人Xにおいて家屋の雨漏りを完全に
修理した上でなくては供託金を受け取ることができない旨の条件を附けて供託した。
これに対し、賃貸人Xは、昭和 29 年2月1日までに9月分以降の家賃を持参払いにて
支払うこと、支払いが無い場合には賃貸借契約を解除するとの催告及び賃料不払を
条件とする賃貸借契約解除の意思表示を行ったが、賃借人Yが同一の条件で供託を
続けたため、家屋の明渡を求めて提訴した。

2 判決の要旨
これに対して裁判所は、賃料減額請求の有無及び賃貸借契約解除の効果につき、
(1) 本件家屋の雨漏りの程度は使用を全く不可能にするものではなかったことは明らか
であるが、住宅として使用する上に著しく支障のある状態にあったと認めるのが
相当であり、賃貸人Xは屋根の修理をする義務を負担していた。
(2) 賃貸人が賃借物について修繕義務がある場合にその義務を履行しないときは、
賃借人は賃貸人が修繕義務の履行を提供するまでは、同時履行の抗弁権によって、
賃借物の瑕疵によって生じた賃借人の損害賠償請求権及び賃料減額請求権の範囲内で
賃料の支払いを拒絶することができる。
(3) 賃借人Yは賃貸家屋の修繕の必要を賃貸人Xに十分に告知していなかったし、
その間現に右家屋に居住している以上、賃料全額の支払いを拒絶するのは度を過ぎた
権利の行使には違いないが、本件家屋の屋根の損傷の程度に徴すれば、賃料の支払拒絶
は一応違法ではないと認める。賃貸人は、賃貸人と賃借人間の信頼関係を著しく傷う
ような賃借人の義務違反があってはじめて契約解除権を持つに至るのであるから、
前記の手落があつたからと云って、そのことのみで直ちに原告の契約解除権が生ずる
とすることはできない。
(4) 以上から、賃貸人Xの契約解除の意思表示は解除の効力を生じたと解する余地は
ないとし、賃貸人Xの請求を棄却した。

【事例2】賃借人が、貸室の遮音構造が不完全であるので、賃貸人にはそれを相当な 程度にまで改修すべき修繕義務があり、それを尽くさない場合には賃借人側 に賃料減額請求権が発生すると主張したが否定された事例
東京地方裁判所判決 昭和 55 年8月 26 日 判例タイムズ第 992 号 76 頁
1 事案の概要(原告:賃借人X 被告:賃貸人Y)
賃貸人Yは、賃借人Xと本件建物の賃貸借契約を締結し、更新もあったが、賃借人Xに
賃料不払いが生じたため、賃借人Xに対し、賃貸借契約の解除の意思表示をなし、家屋の
明渡を求め提訴した(原審)。
原審での敗訴を受けて、賃借人Xが本件貸室の遮音構造がベニヤ板一枚程度の物で
あって不完全であるので、賃貸人Yには改修すべき修繕義務があり、それを尽くさない
場合には賃借人X側に賃料減額請求権が発生すると主張し控訴、更に上告した。

2 判決の要旨
これに対して裁判所は、賃料減額請求の可否につき、
(1) 民法の定める「修繕義務」とは、賃貸借契約の締結時にもともと設備されているか、
あるいは設備されているべきものとして契約の内容に取り込まれていた目的物の
性状を基準として、その破損のために使用収益に著しい支障の生じた場合に、賃貸人が
賃貸借の目的物を使用収益に支障のない状態に回復すべき作為義務をいうのであって、
当初予定された程度以上のものを賃借人において要求できる権利まで含むものでは
ない。

(2) 本件貸室は鉄骨造陸屋根三階建共同住宅のうちの一室で、その各戸の界壁はベニヤ
板一枚程度のものであって遮音構造としては不完全なものであるといえるが、その
構造は賃貸借契約の当初からのものであって、契約の後に変更を生じたものではない
から、賃貸人に修繕義務が発生するものではなく、従って右義務の存在を前提とする
賃料減額請求権の発生を認めることはできない。

(3) 以上から、原審判示の賃貸人への賃料相当損害金の額を変更すること以外は、
賃借人Xの控訴を棄却した。上記修繕義務の解釈に誤りがあるとして上告したが、
上告審は賃借人Xの上告を棄却した(東京高等裁判所判決昭和 56 年2月 12 日 判例
タイムズ第 442 号 123 頁)。

【事例3】賃貸人の修繕義務不履行により賃貸建物の一部が使用収益できなくなった
場合、賃借人は賃料減額請求権を有するとした事例
名古屋地方裁判所判決 昭和 62 年1月 30 日 判例時報第 1252 号 83 頁

1 事案の概要(原告:賃貸人X 被告:賃借人Y)
賃貸人Xは、昭和 55 年6月1日、本件建物(二階部分を居宅、一階部分を店舗)に
つき賃料 10 万円とする賃貸借契約を賃借人Yと締結した。昭和 56 年9月前から本件
建物二階部分で雨漏りが発生した。特に、南側部屋の押入れ上部の天井及び真中の部屋と
南側の部屋との境界付近の天井の雨漏りは、雨天の場合バケツで受け切れず、畳を上げて、
洗面器等の容器を並べ、賃借人Yらが椅子の上に立って、シーツやタオルで天井の雨漏り
部分を押さえざるをえない程であり、本件建物二階部分は、同年9月以前からその少なく
とも3分の2以上が使用不能となった。賃借人Yは賃貸人Xに対し、修繕を求めたが
これに応じなかったため、賃借人Yは支払いを拒絶した。
これに対し、賃貸人Xは、賃貸借契約解除の意思表示をなし、賃貸借契約は解除された
ところ、未払賃料の支払いを求めて提訴した。これに対し、賃借人Yは賃料減額請求を
主張するとともに、保証金返還請求、費用償還請求を内容とする反訴を請求した。

2 判決の要旨
これに対して裁判所は、賃料減額請求の可否につき、
(1) 本件建物二階部分の少なくとも3分の2が、昭和 56 年9月1日以降同 58 年7月
末日まで賃貸人の修繕義務の不履行により使用できない状態にあったことが認め
られるところ、修繕義務の不履行が賃借人の使用収益に及ぼす障害の程度が一部に
とどまる場合には、賃借人は、当然には賃料支払義務を免れないものの、民法第 611 条
第1項の規定を類推して、賃借人は賃料減額請求権を有すると解すべきである。
(2) 減額されるべき賃料額は、右使用できない状態の部分の面積の、本件建物全面積に
対する割合、本件賃貸借契約は、一階店舗部分とその余の居宅部分の使用収益を
目的としていたところ、被告の右店舗部分自体の使用収益にはさしたる障害は生じ
なかったこと及び右判示の雨漏りの情況等の諸般の事情に鑑み、本件賃料額全体の 25
パーセントをもって相当とする。
(3) 以上から、賃料減額請求を認め賃貸人Xの請求を棄却するとともに、賃借人Yの
反訴請求を一部認容した(賃貸人Xによる賃借人Yへの保証金 60 万円、費用償還請求
のうち未払い賃料との相殺後の残金7万 1,130 円及び昭和 59 年9月 22 日から
支払済みまで年5分の割合による金員の支払い)。

【事例4】ハイ・グレードを売り物とし、そのため高めに賃料額の設定された賃貸 マンションに入居した者からの工事騒音や雨漏り、カビ発生等を理由とする 賃料減額請求が認められた事例
東京地方裁判所判決 平成6年8月 22 日 判例時報第 1521 号 86 頁

1 事案の概要(原告:賃貸人X 被告:賃借人Y)
賃貸人Xは、昭和 63 年6月 30 日、本件建物につき賃料 21 万7千円、共益費1万8千
円、賃貸期間を2年とする賃貸借契約を賃借人Yと締結した。賃借人Yは賃貸人Xによる
本件建物が高級賃貸マンションで、ハイ・グレードな生活を居住できるという触れ込みを
信用して賃借したが、工事の遅れによる騒音、入居後の雨漏り、カビの発生等を理由に
平成2年6月分以降の賃料及び共益費を支払わなかった。
これに対し、賃貸人Xは、賃貸借契約解除の意思表示を行い、賃借人Yは本件建物を
退去した。賃貸人Xが未払い賃料の支払いを求めて提訴したところ、賃借人Yは賃料減額
請求(旧借家法第7条)を主張した。

2 判決の要旨
これに対して裁判所は、賃料減額請求の可否につき、
(1) このような宣伝は、ワコーレ玉川学園が比較的高額の賃料設定をしていることの
理由を示すことを一つの目的としており、借り手は、賃料が高めであることをも一つの
要素として、その宣伝内容の真実性を判断し、質の高い住環境が得られることを
期待して入居するものであるから、その実体にその宣伝内容とかけ離れた点があり、
当該賃貸マンションの提供する住環境に、それ程高額の賃料を支払う程の価値がない
ことが判明すれば、賃料額はその実体にみあった額に減額されるべきである。
(2) その減額の程度は、減額すべき要因が、住環境の快適さという点に関するもので
あり、その要因によって受ける影響には個人差のあること、カビによる被害などは、
賃借人においてもっと防止に努力すれば、より軽減された可能性のあることを考慮し、
賃料の約3分の1に当たる7万3千円とするのが相当である。
(3) 以上から、賃借人Yによる賃料減額請求を肯定し、賃貸人Xの請求を一部認容した
(賃借人Yによる減額分、その他損害賠償債権を相殺した残部にあたる 487 万 5,732 円
及びこのうち 326 万 6,752 円に対する平成6年6月 28 日から支払済みまで日歩金
10 銭の割合による金銭及び、79 万 3,594 円に対する平成4年8月1日から支払済み
まで年5パーセントの割合による金員の支払い)。

【事例5】マンションの排水管の閉塞について賃借人に責任がある場合でも賃貸人に おいて合理的な期間内に修繕すべきであるとして、賃料の三割相当額の 支払い拒絶を認めた事例
東京地方裁判所判決 平成7年3月 16 日 判例タイムズ第 885 号 203 頁

1 事案の概要(原告:転貸人X 被告:転借人Y)
転貸人Xは、所有者である訴外Aから本件建物を賃借し、平成2年9月、転借人Yに
転借した。転借人Yの同居人らが台所の流し台の排水口から調理に使用した食物の油の
廃油を多量に流したため、排水状態は悪化し洗濯や入浴に支障をきたすようになった。
転借人Yは平成3年9月7日に賃料の一部を支払って以降、賃料の支払いを拒絶した。
その後、転貸人Xと転借人Yは賃貸借契約を合意解除し、転借人Yは本件建物を退去した。
これに対し、転貸人Xは、未払賃料及び遅延損害金、退去後の工事費等の支払いを
求めて転借人Yを提訴した。

2 判決の要旨
これに対して裁判所は、賃料減額請求の可否につき、
(1) 本件建物の排水に支障を生じさせたことについては、転借人Yに責任があったもの
と認めることができるが、建物の賃貸人は、賃貸建物の使用収益に必要な修繕を行う
義務を負うから、賃借人の責任で修繕を必要とする状態に至った場合においても、
合理的な期間内に修繕を行うべきであり、したがって、右期間内に修繕が行われ
なかったときは、賃借人は信義則上、以後の賃料の支払を建物の使用収益に支障を
生じている限度において拒絶し、あるいは減額の請求をすることができると解すべき
である。
(2) 平成3年9月8日時点の排水状態は本件建物の使用収益に支障を生じる程度に
達しており、かつ、転借人Yは転貸人Xに対し、右状態にあることを指摘して修繕を
要求し、転貸人Xも調査をして右状況を認識するに至っていたのであるから、遅くとも
11 月末までに修繕を行うべき義務があったものと認めるベきである。
(3) したがって、転借人Yは、同年 12 月分以降の賃料について、本件建物の使用収益に
支障を生じていた程度に応じた部分の支払いを拒むことができるところ、前記認定の
排水状態からすれば、最大限賃料の 30 パーセント相当額の支払いを拒むことができる
ものと解すベきである。
(4) 以上から、転借人Yによる賃料減額請求を肯定し、転貸人Xの請求を一部認容した
(賃借人Yによる未払賃料等、損害賠償金及び原状回復費用の合計 339 万 7,752 円
から取得済みの敷金 29 万 7,680 円を控除した 310 万 72 円及びこれに対する平成7年
3月3日以降支払済みまで年5パーセントの割合による金員の支払い)。

【事例6】騒音被害が改善されないことを理由に賃料及び共益費の半額を支払わ なかったことに関し、賃貸人が債務不履行解除した場合につき、賃貸借契約 解除の意思表示は無効であるとした事例
東京地方裁判所判決 判平成 15 年3月 31 日
1 事案の概要(原告:賃貸人X 被告:賃借人Y1、Y2)
賃貸人Xは、賃借人Y1、Y2に本件建物の各居室を賃借していたが、賃借人Yらが
別室の住人の騒音を理由に賃料、共益費を一部支払わなかったため、賃貸人Xは賃貸借
契約の解除の意思表示をなし、退去した賃借人Y1に対し、未払賃料、約定使用損害金の
支払いを、賃借人Y2に対し建物の明渡、未払賃料、約定使用損害金の支払いを求めて
提訴した。
これに対し、賃借人Yらは、騒音を理由に賃料減額請求権を行使したため未払いはない、
仮に未払いがあるとしても解除は無効である等を主張した。

2 判決の要旨
これに対して裁判所は、賃料減額請求の可否につき
(1) 民法第 611 条第1項は、賃貸人の過失によらず目的物の一部が物理的に滅失した
場合に、賃借人は、滅失部分の割合に応じた賃料の減額を請求できるとする規定と
解されるところ、他室の居住者の騒音被害による生活妨害等に対応しないことは
一定の場合に賃貸人の賃借人に対する債務不履行となりうる場合があるにせよ、
通常目的物の一部滅失と同視されるものではなく、当然には同条項が類推適用される
とはいい難い。類推適用が許される場合がありうるとしても、少なくとも、相当期間に
わたって一定時間客観的に受忍限度を超えた騒音が続く状態であるなど、物理的にも
一部使用不能状態が明らかであることが必要と解する。
(2) 集合住宅において許容される限度を超えた騒音が、客観的にどの程度の時間、頻度、
音量で生じていたかは明らかでないのであり、まして物理的にも一部使用不能と
いえる程度にまで達していたと認めるに足りる証拠はないことから、民法第 611 条
第1項類推による賃料減額請求は理由がない。
(3) しかし、数か月に及ぶ一応の交渉等の後に減額請求という手段に及んだこと、不払い
賃料は 25 か月分に相当するものにとどまり、それ以前の5年間で不払いを生じたこと
がないこと、平成 13 年 11 月分以降は履行期に支払っていること、賃料支払能力及び
支払意思に特に問題ないことを考慮すれば、信頼関係を破壊しない特段の事由がある
と認めるのが相当である。
(4) 以上から、賃貸人Xの契約解除の意思表示は無効とし、未払い賃料の支払いを求める
部分のみを認容した(賃借人Y1による8万5千円の支払い、賃借人Y2による 27 万
9,300 円の支払い)。

【事例7】賃貸人からの建物明渡及び未払賃料支払請求に対し、賃借人が賃料減額を
主張したが否定された事例
東京地方裁判所判決 平成 15 年6月6日
1 事案の概要(原告:賃貸人X 被告:賃借人Y)
賃貸人Xは、平成 13 年7月 21 日、本件建物につき賃料9万円、共益費3千円とする
賃貸借契約を賃借人Yと締結した。賃借人Yが賃料を支払わないため、平成 14 年 10 月、
支払の催告と支払わない場合に解除する旨の意思表示を行った。賃借人Yは未払賃料の
一部を支払うのみで、その後も占有を続けた。
これに対し、賃貸人Xは、建物の明渡と未払賃料の支払いを求めて提訴したところ、
賃借人Yは賃料減額を主張した。
2 判決の要旨
これに対して裁判所は、賃料減額請求の可否につき、
(1) ルームエアコンの修理日は、平成 13 年 11 月 29 日ころで支払額は 1,800 円であり、
電話工事の工事日は、平成 13 年 12 月 18 日で支払額は 2,100 円である。これら費用は、
いずれも賃借人Yが本件建物を賃借した後に生じた軽微な修繕費用であって、賃借人
Yが負担すべきものである。
(2) また、賃貸借契約の際の広告は、本件建物について庭付一戸建風と表示してあるが、
これは勧誘文言に過ぎず、庭の使用について特に定めはない。そして、本件建物の
共益費は 3,000 円であり、アパートの維持管理費として、不相当な額であるとは言い
難い。
(3) よって、これらの主張は賃料を減じる理由にはならない。
(4) 以上から、賃貸人Xの請求を認容した。

【事例8】賃貸人が未払賃料の支払いを求めた本訴に対し、賃借人が民法第 611 条の
類推適用による賃料の減額等を求めたが否定された事例
東京地方裁判所判決 平成 15 年7月 28 日

1 事案の概要(原告:賃貸人X 被告:賃借人Y)
賃貸人Xは、平成 14 年4月3日、本件居室につき賃料等 10 万円とする賃貸借契約を
賃借人Yと締結した。賃借人Yが賃料を滞納し始めたため、賃貸人Xは、同年 10 月
賃借人Yに対し滞納賃料を1週間以内に支払うよう催告し、その支払いがないときは、
賃貸借契約を解除する旨の意思表示を行った。これに対し、賃借人Yは、本件居室には
照明器具・換気扇の故障、カビ・臭気の発生といった欠陥があるため催告したにも
かかわらず、賃貸人Xが修繕を行わないためであるとして滞納賃料を支払わなかった。
これに対し、賃貸人Xは、未払賃料及び遅延損害金の支払いを求めて提訴したところ、
賃借人Yは賃料減額等を主張するとともに、賃貸人Xの債務不履行及び不法行為を
理由とする損害賠償を求める反訴請求を行った。なお、係争中に賃貸人Xは訴外Aらに
本件居室を含む賃貸建物を譲渡し、賃借人YはAとの間で賃貸借契約を合意解除し
本件居室を退去している。

2 判決の要旨
これに対して裁判所は、賃料減額請求の可否につき、
(1) 照明器具・換気扇の故障については、その原因が賃借人Yの用法の過誤に起因する
ものではなく、本件居室の機能上・構造上の問題に起因するものであったこと、その
修理が故障の申出があってから完了まで、照明器具については約1か月、換気扇に
ついては、約 10 日間を要し、賃貸人Xが賃借人Yに対し、居住の不便さを与えた
ことは否定できない。
(2) しかしながら、賃借人Yにおいて、当該部品の交換まで、本件滞納賃料の支払いを
拒絶し得るものであったとまで認めることはできないし、もとより賃料の減額を
請求し得る場合でもない。
(3) カビ・臭気については、賃借人Yがその原因であると主張する本件床下収納個所の
存在は他の居室も同様であり、他の居室ではカビ・臭気の苦情はないこと、賃借人Yの
飼育する犬に起因する臭気である可能性もあること等を総合すると、賃貸人Xの修繕
義務の不履行の検討をすべき、カビ・臭気の発生を認めるに足りる証拠はない。
(4) 以上から、賃借人Yの反訴中、賃貸人Xによる1万円及びこれに対する平成 15 年
3月 13 日から完済に至るまで年5分の割合による金員の支払いを命じたほか、賃貸人
Xの請求を認容した(賃借人Yによる未払賃料及び賃料相当損害金 90 万円の支払い)。

【事例9】賃貸人である原告が、被告らに対し、未払賃料等の支払い等を求めたところ、 賃借人である被告による賃料減額の主張が肯定された事例(賃借人は損害 賠償の反訴を提起した)
東京地方裁判所判決 平成 17 年8月 30 日

1 事案の概要(原告:賃貸人X 被告:賃借人Y)
賃借人Yは、平成6年 11 月1日、本件建物につき賃料 55 万円とする賃貸借契約を
訴外Aと締結した。賃貸人の地位が変更される中、平成 13 年1月 30 日賃貸人Xが本件
建物を買受け、賃貸人の地位を承継した。賃借人Yは平成 14 年5月頃、トイレの床に
敷いたカーペットがひどく濡れていることから、水漏れの存在を発見し、賃貸人Xの
代理人である管理業者に連絡し、原因の調査及び修繕を依頼した。同年6月、管理業者は
トイレの便器を交換したが、水漏れは改善されず、台所及びアトリエにカビが発生する
ようになり、賃借人Yの所有品にもカビによる被害が発生した。最終的に同年 10 月 15 日
に共用雑排水管からの漏水が原因と判明し修繕が完了したが、管理業者が水漏れを確認
してから修繕を行うまで4か月以上の期間を要した。賃借人Yは同年8月から家賃の
支払いを拒否し、平成 15 年6月 12 日、本件建物から退去した。
これに対し、賃貸人Xは、未払賃料や原状回復費用の支払いを求めて提訴したところ、
賃借人Yは賃料減額等を主張するとともに、賃貸人Xの債務不履行を理由とする損害
賠償を求める反訴請求を行った。

2 判決の要旨
これに対して裁判所は、賃料減額請求の可否につき、
(1) 賃貸人Xは、正当な理由なく本件水漏れ箇所の修繕を遅延させ、その結果、本件
建物にカビを蔓延させたということができ、本件修繕義務不履行と本件カビの発生
との間に相当因果関係が認められる。そして、本件カビによると思われる原因により
賃借人Yらがその体調に不良を生じたこと、賃借人Y及び本件建物の滞在者はカビの
除去に時間を費やさざるを得なかったこと、カビにより本件建物の機器及び物品類が
汚染され、使用が不可能または使用困難になったと思われることなどの事実が
認められる。
(2) そうすると、本件水漏れに加え、本件カビの発生、増殖により、本件建物を通常の
用法にしたがって使用収益することは阻害されるに至ったとみられるから、本件
建物につき通常の使用ができなかった割合に応じて賃借人Yは、賃料の減額請求を
することができるというべきである(民法第 611 条第1項類推適用)。
(3) 減額されるべき賃料の割合は、本件建物の全部が本件カビに汚染されていた
ものではなかったこと(本件建物1階のベッドルーム(約 6.6 畳)は本件カビに
汚染されてはいなかった)、前記期間中、賃借人Yや他の滞在者も本件建物に
居住し得たこと、賃借人Yには、本件カビの発生を知ったときから、これに対する
防除の措置をとることが可能であり、またこれを期待し得たこと、本件カビの拡散には
賃借人Yの対応の不備も与っていると思われることなど諸般の事情を併せ考慮すると、
3割と評価するのが相当である。
(4) 以上から、賃借人Yによる賃料減額請求を肯定し、賃貸人Xの請求を一部認容した
(賃借人Yによる未払賃料等 379 万 5,592 円から賃借人Yの賃貸人Xに対する物品類
の損害及び慰謝料を相殺した残額 61 万 2,500 円及びこれに対する平成 15 年6月 23 日
から支払済みまで年6分の割合による金員の支払い)。また、賃借人Yの賃貸人Xに
対する反訴請求を一部認容した(賃貸人Xによる損害賠償金 340 万 4,408 円及び
これに対する平成 16 年4月 15 日から支払済みまで年6分の割合による金員の支払い)。

【事例 10】賃料等の不払いを理由として賃貸借契約を解除した賃貸人が建物明渡と 未払賃料及び賠償金の支払いを求めたが、賃借人には賃料減額を求めること ができる事情があり、解除は許されないとして未払賃料の一部に限り請求を 認容した事例
東京地方裁判所判決 平成 18 年9月 29 日

1 事案の概要(原告:賃貸人X 被告:賃借人Y)
賃貸人Xは、平成 17 年7月 29 日、本件建物につき賃料 21 万 6,100 円、共益費 7,000
円とする賃貸借契約を賃借人Yと締結した。賃借人Yは同年 12 月1日以降、寝室の窓の
破損を理由に賃料の支払いを拒絶した。
これに対し、賃貸人Xは、平成 18 年4月7日、賃料不払いを理由とする賃貸借契約
解除の意思表示を行い、本件建物の明渡及び未払賃料の支払いを求めて提訴したところ、
賃借人Yは賃料減額及び賃貸借契約解除の無効を主張した。

2 判決の要旨
これに対して裁判所は、賃料減額請求の可否及び賃貸借契約解除の効果につき、
(1) 本件建物の寝室の窓が遅くとも平成 17 年 12 月1日以降壊れ、窓と部屋との隙間を
埋めるパッキンがずれ落ちてしまったため、すきま風と本件建物の眼前の鉄道の
騒音が部屋内に侵入したこと、賃借人Yは直ちに賃貸人Xに対し修繕を求め、対処する
という返事を得たもののその後の連絡がなかったこと、部品がなく修理が完了した
のは平成 18 年6月頃であったこと、賃借人Yは平成 17 年 12 月1日から修繕が完了
する平成 18 年6月 30 日まで、本件建物に居住することができず、友人宅に住んで
いたことが認められる。
(2) そうすると、賃借人Yは、平成 17 年 12 月1日から平成 18 年6月 30 日までの間、
賃貸人Xの修繕義務の不履行により、少なくとも本件建物の一部が使用できない
状態にあったことが認められる。
(3) 賃借人は、賃貸人が修繕義務を履行しないときは、民法第 611 条第1項の規定を
類推して、賃料減額請求権を有すると解されるところ、上記修繕の対象は窓であり、
本件建物の使用収益に及ぼす障害の程度、被告が中目黒の友人宅に居住せざるを
得なかったことなど、諸般の事情にかんがみると、本件賃貸借契約においては、
減額されるべき家賃等は 50 パーセントをもって相当とする。
(4) 以上から、賃貸人Xの契約解除の効力を否定した上で、減額された残りの未払賃料に
つき賃貸人Xの請求を一部認容した(賃借人Yによる平成 17 年 12 月1日から
平成 18 年4月7日まで1か月につき 11 万 5,050 円の割合による金員及びこれに
対する各支払期限の翌日から各支払済みまで年 14.56 パーセントの割合による金員の
支払い)。

【事例 11】賃貸人が修繕義務を履行しないことを理由に賃借人が賃料を減額して
支払っていたところ、賃貸人からの契約解除が否定された事例
東京地方裁判所判決 平成 23 年 12 月 15 日

1 事案の概要(控訴人:賃借人X 被控訴人:賃貸人Y)
賃貸人Yは、平成 21 年 12 月 21 日、本件建物につき賃料6万円とする賃貸借契約を
賃借人Xと締結した。賃借人Xが賃貸人Yの修繕義務の不履行を理由に賃料を滞納した
ため、賃貸人Yは平成 22 年 10 月、支払督促の申立てを行った。その後、訴訟に移行し、
前審において、賃貸人Yの請求が一部認容された(詳細不明)。
これに対し、賃借人Xは、原審敗訴部分の取消しを求めて控訴したところ、賃貸人Yも
被控訴人敗訴部分の取消し及び建物の明渡、未払賃料等の支払いを求めて附帯控訴した。
なお、控訴審係争中の平成 23 年9月 15 日、賃貸人Yは本件賃貸借契約を解除するとの
意思表示をした。賃借人Xは賃料減額及び賃貸借契約解除の無効を主張した。

2 判決の要旨
これに対して裁判所は、賃料減額請求の可否及び賃貸借契約解除の効果につき、
(1) 現在、修繕されておらず、かつ、修繕義務の認められる不具合は、台所及び風呂場の
換気扇の不具合(台所の換気扇は油がこびりつき、風呂場の換気扇は埃まみれであり、
いずれもモーターの劣化により回転不足で機能しない状態であった。特に、台所の
換気扇は、煙が充満して部屋がくもることもあるほどで、少し回しておくとゆっくりに
なり、止まることもあった。)、備品である冷蔵庫の故障(電源が入らない状態であった。)
及び便器の取付け部からの汚水の漏れ(取付け部から排水溝まで茶色ににじんでいた。)
である。
(2) 賃貸人が修繕義務を履行しないときは、民法第 611 条第1項の規定を類推して、
賃借人は賃料減額請求権を有すると解されるところ、本件建物の使用収益に及ぼす
障害の程度その他諸般の事情に鑑みると、本件賃貸借契約においては、減額されるべき
賃料額は1万円をもって相当とする。
(3) 解除については、賃借人Xは、平成 22 年5月分から1か月の賃料を2万 9,580 円に
減額して支払っており、減額幅は大きすぎるといわざるを得ない。しかしながら、
上記に判示のとおり1万円の賃料減額は認められるべきであること、賃借人Xは
入居当初から不具合を主張しており、入居後から平成 22 年5月まで4か月以上が
経過しても修繕がされなかったこと、賃借人Xは、同年8月になってからではあるが、
賃貸人Yに対し、賃料を減額する理由及び減額する金額を明示した内容証明郵便を
送付していること、賃借人Xが賃料を1か月2万 9,580 円しか支払っていなかった
のは専ら賃貸人Yの修繕義務不履行を原因とするものであると認められること、
その他紛争に至った経緯等本件に関する一切の事情に照らせば、本件における賃借人
Xの賃料不払いについては背信性がなかったというべきである。
(4) 以上から、賃貸人Yの契約解除の効力を否定した上で、原判決を次のとおり変更した
(賃借人Xによる 40 万 7,852 円及びうち 36 万 5,250 円に対する平成 23 年9月 16 日
から支払済みまで年 14 パーセントの割合による金員の支払い)。

一部使用不能の内容別にみる賃料減額等の対応事例
一部使用不能の内容別の賃料減額事例を紹介する。なお、事例の抽出条件は、以下の
とおりである。
・ 賃料減額の割合が明白であること(具体的な金額で示された事例は、当該物件の
賃料に依る部分があると考えられるため除外)
・ 修繕が完了するまでにかかった日数が明白であること
・ 事例の得られた都道府県が明らかであること
なお、紹介事例はあくまでもアンケート調査の結果であり、諸般の事情を考慮して 当事者で円満に解決された事例を参考として紹介するものであるため、賃料減額等の 基準を決定するものではない。賃料減額等に関する考え方については本編の通りである ことに注意されたい。

1 トイレが使えない事例 都道府県 賃料減額等の態様 修繕完了
までの日数
賃料減額割合 (月額)等 大阪府 修繕が完了するまでの一時的な賃料の減額 30 日 100%
熊本県 修繕が完了するまでの一時的な賃料の減額 30 日 100%
東京都 設備が使用できない期間のお詫び金の提供 1日 10%
東京都 お詫び金の提供、ホテル等の宿泊代金の提供、
一時的な賃料の減額 10 日 15%
東京都 修繕が完了するまでの一時的な賃料の減額 7日 10~20%
東京都 修繕が完了するまでの一時的な賃料の減額 1日 日割分程度
広島県 設備が使用できない期間のお詫び金の提供 20 日 100%

2 風呂が使えない事例 都道府県 賃料減額等の態様 修繕完了
までの日数
賃料減額割合 (月額)等 神奈川県 修繕が完了するまでの一時的な賃料の減額 3日 10%
京都府 設備が使用できない期間のお詫び金の提供 2~3日 銭湯代
京都府 修繕が完了するまでの一時的な賃料の減額 14 日 50%
京都府・
大阪府・
兵庫県
お詫び金の提供、ホテル等の宿泊代金の提供 3日 10%
熊本県 修繕が完了するまでの一時的な賃料の減額 30 日 100%
埼玉県 修繕が完了するまでの一時的な賃料の減額 30 日 50%
埼玉県 設備が使用できない期間のお詫び金の提供 10 日 50%
東京都 修繕が完了するまでの一時的な賃料の減額 10 日 50%
東京都 設備が使用できない期間のお詫び金の提供 1~7日 銭湯代

3賃料減額割合 都道府県 賃料減額等の態様 修繕完了
までの日数
(月額)等 東京都 設備が使用できない期間のお詫び金の提供 3日 銭湯代
東京都 修繕が完了するまでの一時的な賃料の減額 15 日 50%
東京都 設備が使用できない期間のお詫び金の提供 2日 10%
東京都 設備が使用できない期間のお詫び金の提供 2~3日 10%
東京都 お詫び金の提供、ホテル等の宿泊代金の提供、
一時的な賃料の減額 10 日 10%
東京都 修繕が完了するまでの一時的な賃料の減額 3日 10%
東京都 修繕が完了するまでの一時的な賃料の減額 4~5日 20%
東京都 修繕が完了するまでの一時的な賃料の減額 3~7日 日割分程度
東京都 修繕が完了するまでの一時的な賃料の減額 1日 日割分程度
徳島県 修繕が完了するまでの一時的な賃料の減額 2日 10%
鳥取県 修繕が完了するまでの一時的な賃料の減額 15 日 50%

3 水が出ない事例 都道府県 賃料減額等の態様 修繕完了
までの日数
賃料減額割合 (月額)等 熊本県 修繕が完了するまでの一時的な賃料の減額 30 日 100%
群馬県 修繕が完了するまでの一時的な賃料の減額 1日 日割分程度
埼玉県 設備が使用できない期間のお詫び金の提供 1~3日 0~10%
東京都 修繕が完了するまでの一時的な賃料の減額 1日 日割分程度
広島県 設備が使用できない期間のお詫び金の提供 20 日 100%

4 エアコンが作動しない事例 都道府県 賃料減額等の態様 修繕完了
までの日数
賃料減額割合 (月額)等 大阪府 設備が使用できない期間のお詫び金の提供 1日 20%
京都府 修繕が完了するまでの一時的な賃料の減額 5日 日割分程度
東京都 修繕が完了するまでの一時的な賃料の減額 4~5日 5%
東京都 設備が使用できない期間のお詫び金の提供 1~3日 日割分程度
東京都 設備が使用できない期間のお詫び金の提供 5日 10%
東京都 設備が使用できない期間のお詫び金の提供 5日 10%
宮城県 修繕が完了するまでの一時的な賃料の減額 30 日 50%

5 電気が使えない事例 都道府県 賃料減額等の態様 修繕完了
までの日数
賃料減額割合 (月額)等 愛知県 お詫び金の提供、ホテル等の宿泊代金の提供 1~2日 ホテル代
東京都 修繕が完了するまでの一時的な賃料の減額 1日 日割分程度

6 ガスが使えない事例 都道府県 賃料減額等の態様 修繕完了
までの日数
賃料減額割合 (月額)等 東京都 修繕が完了するまでの一時的な賃料の減額 1日 10%
東京都 修繕が完了するまでの一時的な賃料の減額 3日 10%
山口県 修繕が完了するまでの一時的な賃料の減額 10 日 30%

7 換気扇が動かない事例
換気扇が動かない事例で賃料減額等の割合が明らかな事例は見られなかった。

8 テレビが見られない事例 都道府県 賃料減額等の態様 修繕完了
までの日数
賃料減額割合 (月額)等 東京都 設備が使用できない期間のお詫び金の提供 7日 ケーブル TV 代
東京都 修繕が完了するまでの一時的な賃料の減額 30 日 100%

9 排水管の詰まりの事例 都道府県 賃料減額等の態様 修繕完了
までの日数
賃料減額割合 (月額)等 愛知県 お詫び金の提供、ホテル等の宿泊代金の提供 1~2日 ホテル代
大阪府 設備が使用できない期間のお詫び金の提供 1日 日割分程度
神奈川県 設備が使用できない期間のお詫び金の提供 90 日 30%
千葉県 修繕が完了するまでの一時的な賃料の減額 20 日 50%
東京都・ 神奈川県 修繕が完了するまでの一時的な賃料の減額 1日 日割分程度
三重県 ホテル等の宿泊代金の提供、一時的な賃料の
減額 30 日 100%

10 上階からの漏水の事例 都道府県 賃料減額等の態様 修繕完了
までの日数
賃料減額割合 (月額)等 愛知県 お詫び金の提供、ホテル等の宿泊代金の提供 1~2日 ホテル代
愛知県 修繕が完了するまでの一時的な賃料の減額 7日 25%
青森県 設備が使用できない期間のホテル等の宿泊
代金の提供 3日 5%
大分県 設備が使用できない期間のお詫び金の提供 60 日 100%
神奈川県 設備が使用できない期間のホテル等の宿泊代金の提供 7日 50%
熊本県 修繕が完了するまでの一時的な賃料の減額 30 日 10%
群馬県 修繕が完了するまでの一時的な賃料の減額 7日 日割分程度
静岡県 修繕が完了するまでの一時的な賃料の減額 30 日 100%
愛知県・岐阜県・三重県 お詫び金の提供、一時的な賃料の減額 15 日 50%
東京都 設備が使用できない期間のホテル等の宿泊代金の提供 7日 25%
東京都 修繕が完了するまでの一時的な賃料の減額 4日 30%
東京都 修繕が完了するまでの一時的な賃料の減額 30 日 2%
東京都 設備が使用できない期間のホテル等の宿泊代金の提供 5日 10%
東京都 修繕が完了するまでの一時的な賃料の減額 7日 10~20%
東京都 ホテル等の宿泊代金の提供、一時的な賃料の減額 1~30 日 日割分程度
東京都 修繕が完了するまでの一時的な賃料の減額 7日 日割分程度
東京都 設備が使用できない期間のホテル等の宿泊代金の提供 2日 ホテル代
東京都 設備が使用できない期間のホテル等の宿泊代金の提供 2日 ホテル代
東京都・ 神奈川県 修繕が完了するまでの一時的な賃料の減額 1日 日割分程度
兵庫県 修繕が完了するまでの一時的な賃料の減額 10~30 日 50~100%
北海道 設備が使用できない期間のホテル等の宿泊代金の提供 3~6日 50~100%

11 雨漏りの事例 都道府県 賃料減額等の態様 修繕完了
までの日数
賃料減額割合 (月額)等 愛知県 お詫び金の提供、ホテル等の宿泊代金の提供 1~2日 ホテル代
大阪府 修繕が完了するまでの一時的な賃料の減額 60 日 20%
大阪府 修繕が完了するまでの一時的な賃料の減額 90 日 13%
沖縄県 修繕が完了するまでの一時的な賃料の減額 30 日 10%
京都府 設備が使用できない期間のホテル等の宿泊代金の提供 1~7日 ホテル代
群馬県 修繕が完了するまでの一時的な賃料の減額 7日 日割分程度
埼玉県 修繕が完了するまでの一時的な賃料の減額 14 日 日割分程度
埼玉県 設備が使用できない期間のお詫び金の提供 10 日 50%
東京都 修繕が完了するまでの一時的な賃料の減額 30 日 2%
東京都 お詫び金の提供、ホテル等の宿泊代金の提供、一時的な賃料の減額 30 日 20%
東京都 設備が使用できない期間のホテル等の宿泊代金の提供 5日 10%
東京都 修繕が完了するまでの一時的な賃料の減額 90 日 25%
東京都 ホテル等の宿泊代金の提供、一時的な賃料の減額 1~30 日 日割分程度
東京都 修繕が完了するまでの一時的な賃料の減額 7日 日割分程度
山口県 修繕が完了するまでの一時的な賃料の減額 7日 30%

12 結露・カビ等の発生の事例 都道府県 賃料減額等の態様 修繕完了
までの日数
賃料減額割合 (月額)等 東京都 修繕が完了するまでの一時的な賃料の減額 30 日 2%
東京都 修繕が完了するまでの一時的な賃料の減額 20 日 10%

13 その他の事例
窓ガラスの破損、扉、サッシ、網戸の故障、給湯器が使えない等の一部使用不能の
事例が挙げられたが(34 頁下表)、賃料減額等の割合が明らかな事例は見られなかった。

カソッカちゃん
カソッカちゃん
今までの裁判の判例から2020年4月1日新民法は考えられたのヨ!賃貸民法改正で貸主も借主も裁判になる事が少なくなるネ!
マッドリ
マッドリ
でも、大家の多くはこの新民法を知らないケースも多いんだ!僕の知り合いなんかは全く知らない・・・
ヤロッカ
ヤロッカ
大家さんと良く話すことの多い管理のプロがしっかり対応していかないとね!
スム君
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